2013年8月16日〜31日
8月16日 ラインハルト 〔ラインハルト〕

 さわやかな朝―っと、目が覚めたら、まわりはあんまりさわやかではなかった。

 ウォルフは朝からおれを無視。廊下でイアンに挨拶したら、目をそらされた。

「おい。なんでそういう態度をとるんだ」

と耳を掴んだら、怒り出した。

「おまえは昨日、おれに何を言ったか忘れたのか!」

「なんか言った?」

「!」

「なんて言った? ウォルフのこと相談してたんだっけ」

「もういい!」

 彼は行ってしまった。

 ……怒ってるな。やっぱりちょっとまずかったか。でも、忘れてくれるよね。イアンなら。


8月17日 イアン 〔アクトーレス失墜〕

 ラインハルトのせいで、睡眠時間がだいぶ削られた。

 客の名前を間違って呼んでしまうし、会議の時間に意識が遠のいて恥をかいた。

 今日は早く帰って寝たいと思っていたら、ウォルフから電話が来た。

『今晩そっちに泊めてくれないか』

「……」

 おれは電話を投げそうになった。

「絶対にダメだ」

『家出したいんだ』

「おれがラインハルトに刺されてもいいのか?」

『……あ、そうか』

 あ、そうか、ではない。ウォルフもラインハルトのことになるとバカになるな。


8月18日 イアン 〔アクトーレス失墜〕

 昨夜はジムでのトレーニングもそこそこに部屋に帰って、ベッドに入った。

 30分もしないうちに携帯が鳴った。ラインハルトだ。出るのはイヤだったが、事故だと困るので出てみると、

『ウォルフがそっちいったろ』

「きてない」

 すぐ切った。すると少ししてドアがバンバン叩かれた。
 無視して寝た。

 いつしか音が変わっていた。ノックではない。何か硬いものがぶち当たる音だ。

 ドアが壊れる。おれはついにバスローブをひっかけて出て行った。開けたら、いきなり拳が飛んで来た。


8月19日 イアン 〔アクトーレス失墜〕

 予想はしていたので、かわすことができた。

 ラインハルトはパンチの成果にはかまわず、まっすぐに家捜ししはじめた。

「ウォルフならいないぞ」

 彼は聞かず、ベッドルーム、クローゼット、バスルーム、窓の外に至るまで調べた。

 青い目が獲物を注視する猫のように真剣だった。あげく、おれには何も言わず出て行った。

 ドアを確認すると、いくつも深い傷がつき、近くに消火器が転がっていた。

 おれはウォルフに電話した。

「早くあのドラ猫と仲直りしろ。ドアを壊された」


8月20日 イアン 〔アクトーレス失墜〕
 
 今朝、ラインハルトは晴れやかな笑顔で出てきた。

「イアン。ドアの修理、こっちで呼んどいたよ。昼ぐらいには直してくれるって」

「……その前に何か言うことがあると思うのだが」

「解決した。ウォルフ、護民官府にいたわ」

「いや、そうではなく――」

「あいつ、家出しようとしてたんだよ。ちょっとふざけただけなのに。もうほんっとに嫉妬深いんだ。意味ないよな、嫉妬って」

「ラインハルト」

 おれは彼の目をまっすぐ見た。ラインハルトはにっこり笑った。

「イアン、いろいろありがとう!」


8月21日 カシミール 〔未出〕

 ついにダブルベッドを買った。

 なんでこういうことになったのか、いまひとつ納得がいかないが、船長がおれの部屋で生息している。

 ソファに寝たのは最初だけで、すぐベッドにもぐりこんでくるようになった。

 おれもその頃にはなんとなく押し切られていた。前からすでに予感はあった。船長はバカみたいに陽気で、いっしょにいると気分が明るくなるから。

 結局、こいつが正解なんだ。クリスにはどうしようもなく惹かれるけど、たぶん、彼はおれを遊び以上には見てはくれないからね。


8月22日 ジル 〔不貞〕

 サー・コンラッドが帰ってくると、アンディは祭りの日みたいにはしゃいでしまう。

 旦那は初日はたいがい、おれの部屋に来るのだが、それをしきりにうらやましがっている。だが、じつはその日はほとんど旦那とセックスはしない。

 旦那はたいがい戦地で疲労困憊していて、倒れこむようにヴィラに帰ってくる。見栄張りの英国紳士である彼はそんな様子はほとんど出さないが。

 おれは彼の疲れがわかるから、わざと先に寝てしまう。なぜかそんなしおらしいまねをしてしまう。
 なんでかな。


8月23日 ジャック 〔バー・コルヴス〕

 ある若いご主人様が悩んでいらっしゃいました。

「すごい美人じゃないんだ。まあ、きれいだけど平凡なんだよ。頭の出来もふつうで。それに地下の子なんだ。地下の子なんて知られるとなあ」

 サー・コンラッドが言いました。

「ま、やめておくんだな」

「やっぱり地下の子はダメか」

「いや、きみがダメだ。その子より自分の世間体を愛しすぎる」

「……」

「ねえ、きみ。バカらしいと思わないかい? このヴィラで、体面が悪いとか、恥ずかしいとか? ここ、ヴィラだぜ?」


8月24日 アルフォンソ 〔わんわんクエスト〕

「なんでもないやつでもさ。ほかの男と話していると苛々する」

 可愛い子が赤い目で相談することがあります。

「彼が好きなの?」

「ノー。でも前はこっちにおべんちゃらばっかり言ってたくせに、いまは無視。で、ほかの男におべんちゃら」

 彼は言いました。

「あいつのことなんか考えたくないんだけど、どうしたらいい?」

 横から口が入りました。

「考えなくていい。それはそいつの作戦だ」

 可愛い子がハッと目をあげました。

「ああ!」

 笑顔が戻りました。
 自称嫉妬の専門家ルノー、お見事です。


8月25日 カーク船長 〔未出〕

 毎朝、しあわせ。目が覚めると目の前に金髪美人が眠っている。

 これを見るためにちょっと早起きしちゃうんだよね。天使みたいでほんとに可愛い。

 可愛い〜って快楽物質が湧き上がって、むぎゅーっと抱きしめたくなる。やると苦しいって叱られるんだけど。

 クリスにもってかれそうになった時は焦ったけど、行動してよかった。追い出されなかったもんね。

 カシミール、押しに弱いなあ。ほかの強引な男が押してこないよう見張ってなきゃ。


8月26日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 ご主人様がやっと帰ってきた。

 ランダムはご主人様のことをちゃんと覚えていて、しきりにまとわりついた。

 エリックが彼に言った。

「ランダム。立って、ハグ」

 ランダムはちょっとまわりを見回したが、掴まるところがない。でも、エリックは強く命じた。

「起立、ハグ!」

 ランダムはぐいっと上体を浮かせた。ちょっとぐらつきながら三歩歩き倒れかかるようにご主人様にハグした。

 ご主人様は感激して彼を強く抱きしめた。


8月27日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 エリックはご主人様にランダムがもうかなり長く立っていられること、指の力が戻っていてドアノブを握れることなどを報告した。

「できるのにすぐ横着するんですけどね」

 ランダムはリハビリ施設のプールが好きで喜んで浮く。なぜか犬ビスケットで釣ると二十歩ぐらい歩けると説明した。

「でも、アクトーレスのパウルはCFのプールには入れないでくれと言ってます。まわりが心配するから」

 エリックは夢中で話していた。その間、ご主人様はとてもやさしい目で彼を見ていた。


8月28日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 ランダムはご主人様が帰ってきてうれしいようだった。ご主人様に頭を差し出して、撫でてもらおうとする。

 リビングでみんながくつろいでいる間も、ずっとご主人様の膝に頭を乗せてごろごろ。ちょっと、うらやましいなと思ってしまった。

 すると、アルが「こっちも、こっちも撫でて」とそのひざに頭を乗せてごろごろ押し付けた。

 おれもふざけてひっくり返った。

「こっちもおねがいします」

 キースも笑ってひっくり返った。

 ご主人様は笑っていたが、あとの三人は顔をヒクつかせていた。


8月29日 エリック 〔調教ゲーム〕

 昨夜遅く、アルがおれの部屋に来た。ランダムを連れていて、

「ちょっとこの子、寝かしつけてくれないか」

 めずらしく少しあわてていた。
 今朝、事情を聞くと、彼は笑った。

「いや、ご主人様が来てたのよ。ベッドに入っていざって時にここにランダムの顔があってさ」

 ベッドの下からランダムがまじまじと見ていたという。

「きみにも一応羞恥心があったか」

「いや、さすがにランダムだとね。きみらに見られながらやるのは問題ないんだが。いや、むしろ興奮するんだが」

 どういう性癖だ。


8月30日 フィル 〔調教ゲーム〕

 ご主人様とふたりでいる時、ぼくに打ち明け話をした。

 じつは新しい犬を飼っている。両方とも日本人。

「両方?」

 ふたりだという。
 ぼくはさすがに見返した。ご主人様と目が合った。少しこらえたが、やはり吹いてしまった。おかしくもないのに。

「ぼくたちは明日、あなたをリンチにかけますが、覚悟はよろしいですか」

 ご主人様は抱きついてきた。そうならないように知恵を貸してくれと言った。

 ぼくは嘆息した。無理だろ。ミハイルに殺される。エリックやロビンにも。ぼくだって一発殴りたい。


8月31日 フィル 〔調教ゲーム〕

 ぼくは言った。

「アルは広い心で受け止めるだろうし、キースはあなたを独占しようとはしない。でも、ミハイル、エリック、ロビンは動揺すると思いますよ」

 打ち明ける必要があるのか、と聞くと、いずれヴィラでも遊びたいという。

「ぼくたちと暮らすということなら、もちろん受け入れますが」

 ところがそうではない。かたほうは家族員の会員資格を与えており、取引先の息子でいま秘書を務めているといった。

 ぼくの心にはじめて黒い油煙がたった。


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